ここでは、日本の企業で採り入れられているバイオフィリックデザインの実例を3つ紹介します。
国土交通省も注目する
バイオフィリックデザイン
国土交通省では、働き手の減少にともない、生産性向上のためには職場や働き方のイノベーションが必要であると提言しています。「首都圏における都市開発を通じたイノベーション空間の創出」という資料のなかで、オフィスに緑や自然音などを取り入れた「バイオフィリックデザイン」も効果的な事例の一つとして紹介しています(※)。
バイオフィリックとは、「人間は本能的に自然を求めている」という概念です。その概念を建築に生かしたデザインがバイオフィリックデザインと呼ばれ、欧米ではオフィス設計の一要素として浸透しています。世界をリードするIT企業のAmazon本社やGoogle本社でも、バイオフィリックデザインが大規模に採用されていることで知られています。
以下に、日本で導入されているバイオフィリックデザインの実例を紹介します。
実例1.BUSINESS HUB
インキュベーションラウンジ

従業員の健康促進の一貫として
バイオフィリックデザインを採用
東京都千代田区にあるBUSINESS HUBは、さまざまな人材や企業を対象としたインキュベーションラウンジです。もともと「従業員の健康」を経営テーマとし、社員食堂や従業員が利用できるスポーツジムなどを設置していました。その中で、ストレスを軽減させる要素としてオフィスの緑化を図ろうと、職場にバイオフィリックデザインを採り入れることになりました。
各デスクに大型の植物を配置したり、好きな植物を自分のデスクに持ち込める「シェアグリーン」を導入したりして、従業員や会員の健康につなげています。利用者からは、「仕事がしやすくなった」「開放感がありながらもプライバシーを確保できる」など、ポジティブな感想が届いているようです。
実例2.竹中工務店 東京本店

多様な働き方を推奨する中で
バイオフィリックデザインの考えも
導入
東京都江東区にある竹中工務店では、共創・多用性・健康の3つの観点から、2018年よりバイオフィリックデザインを採用しています。自由に部署間を移動でき気軽なコミュニケーションを可能とするABW(Activity Based Workingの略。業務内容や気分に合わせて、働く場所や時間を選択できる働き方)を導入する中で、緑に囲まれたワークラウンジと呼ばれるスペースを設置。
リラックスして働けるよう配慮されています。オフィスは植物を配置するだけでなく、フローリングを一部に採用することで温かみのある優しい雰囲気に。また外を見ながら集中できる窓際デスクも設け、従業員が自由で健康的な働き方ができる空間を実現しています。
事例3.ヤンマー本社ビル


国際的にも認められた
バイオフィリックデザインの
理想的モデル
農機具の販売やアグリ事業を手がけるヤンマー。本社ビルは、2017年11月に国際的な賞である「Biophilic Design Award」で入賞を果たしています(2022年5月調査時点)。
バイオフィリックデザインが施されているのは、地面を覆う性質のある植物を壁面に植栽した「壁面緑化」や、雨水が再利用されたエントランススペースに流れる水など。その他にも、最上階に設置されたガラス張りの養蜂場など、「自然との共生」をテーマにした設計デザインが評価されています。
表彰された内容以外にも、船の帆をイメージしたビルの外観や、木で包まれたような外観を持つ会議室など、自然をイメージしたものが多いことが特徴です。また、オフィス内に自然光を多く入れられるよう、太陽光彩光システムも導入しています。
オフィス以外のバイオフィリックデザイン事例
世界中で注目されているバイオフィリックデザイン。オフィスだけではなく、複合施設や集合住宅、カフェや本屋などでも取り入れられています。
実例4. JR熊本駅ビル

JR熊本駅の駅ビル内に設けられたパブリックスペース。熊本県阿蘇地方の自然と建築を融合させた屋内空間となっており、立体庭園が商業ビルの室内から屋外まで続きます。
「水」をテーマにしており、涼しげな水や美しい緑が癒しの空間をつくりあげています。自然の魅力を感じられる居心地の良い空間を創出できたことで、実際に駅ビル内の回遊や滞在率アップにつながっているのだとか。
鍋ヶ滝をモチーフにした滝を設置

JR熊本駅ビルのバイオフィリックデザインにおいて、メインとなる水景。熊本県の名所「鍋ケ滝」をモチーフとしており、高さ約10m・幅約10mのダイナミックな滝が訪れた人を魅了します。
滝は上層階から低層階まで続き、建物内に発生する音や気流が癒してくれます。低層階では滝壺に水が落ちる迫力のある音を楽しめるほか、上層階ではほどよい滝の音が体験できるそう。滝は視覚的にも聴覚的にも心地良い刺激を与えてくれることから、訪れた人の評価が高いそうです。
1Fでは風を感じられる

鍋ヶ滝をモチーフとした滝のある1階では、心地良い風も感じることができます。調査の結果、この滝から発生する風は自然の風と似ており、「1/fゆらぎ」というスペクトル特性があることがわかりました。機械的なリズムの風よりも好まれやすいため、滝から発生する風を魅力的だと感じる人が多いようです。
天井窓から日光が降り注ぐ

JR熊本駅ビルは周囲の視界がひらけた立地にあることから、自然光を取り入れやすいのも特徴です。その利点を活かし、最上階には天窓を設置。また、吹き抜けで開放感を確保した空間はガラス壁面となっており、自然光をふんだんに取り入れることができます。このため、庭園周辺は太陽光に近い波長特性になっているのだそうです。
上層階から1階まで自然光が降り注ぐ様子が、熊本の美しい自然を彷彿とさせます。
実例5. GREEN SPRINGS

GREEN SPRINGSは、東京都立川市に誕生した新街区。「空と大地と人がつながるウェルビーイングタウン」として、心にも体にも健康的で心地良いライフスタイルがテーマ。バイオフィリックデザインを採用しています。
たとえば立川駅前と昭和記念公園エリアの立地を「日本家屋の縁側」にたとえ、まちの縁側として半屋外空間などを創出。建物と環境がシームレスにつながることで、豊かな自然を感じやすい設計になっています。
実例6. LEAF COURT PLUS

幡ヶ谷駅から徒歩4分の立地にあるコンセプト型賃貸マンションでは、共用部にバイオフィリックデザインを採用。空へとつながる中庭には美しい植物が植えられており、居住者の憩いのスペースとなっています。朝には清々しい太陽の光が降り注ぎ、夜には照明によって照らされた木々が一日の疲れを癒します。
なお、こちらのマンションでは照明にもこだわっており、LED照明を制御することで照度や色温度が自然に近いサイクルで変化。植物の生育環境とともに生活することができます。
実例7. チャンギ国際空港

シンガポールの空のメイン玄関口となる、チャンギ国際空港のバイオフィリックデザイン事例です。ドーム型の複合施設には巨大な滝を設置しており、屋内の滝としては世界最大規模。高さ約40mもあるため、大迫力に圧倒されそうです。
また、およそ2,000本もの木々が植えられたフォレスト・バレーや花が咲き誇るサンフラワーガーデン、1,000羽を超える蝶が舞うバタフライガーデンなど、空港内のいたる所に自然が溢れています。
実例8. パークロイヤル・コレクション・マリーナ・ベイ

シンガポールにオープンしたパークロイヤル・コレクション・マリーナ・ベイは、バイオフィリック型施設として注目を集めています。サステナビリティー(持続可能性)とウェルネスをテーマとして設計されており、巨大な屋内アトリウムには天窓から自然光が降り注ぎます。また、屋内では多数の草花や高低木、地被植物が栽培されています。
さらにこちらのホテルではホスピタリティ業界のグリーンイノベーションを提唱。客用エレベーターや非常用照明の電力をすべて再生可能エネルギー用ソーラーパネルから供給する、全客室に浄水システムを設置するなどの取り組みを行っています。
実例9. Bar Botanique

オランダのアムステルダムにあるカフェ&バー「Bar Botanique」は、ジムを改装してつくられました。
ランチやアペロ(食前酒)、ディナーやドリンクを提供するこちらのカフェ&バーの店内には、大型の観葉植物が複数置かれています。内装はグリーンを基調としており、窓から光が差し込みます。また、天井からはアームが吊り下げられており、鏡や植物が取り付けられています。
実例10. M.I. bookstore

中国のハルビン市にある本屋の事例です。大空間に美しく並べられた本はさることながら、植物が調和したドーム型空間が印象的。こちらのドーム型空間は繭をイメージしてつくられており、中ではコーヒーを飲みながら本を読むことができます。また、天井近くに大きく設けた窓からは自然光が降り注ぎます。
実例11. Leman Locke Hotel

イギリスのロンドンにあるホテルのバイオフィリック事例です。Leman Locke Hotelでは、期間限定でバイオフィリックデザインを取り入れ、3つのスイートルームをチェンジ。
なかでもバイオフィリックデザインを専門にデザインするOliver Heathが手掛けたスイートルームには、美しくかわいらしい植物をいたる所に設置。「生産性」をテーマにしたこちらの部屋では、約150種類もの植物を使用しているそうです。
実例12. Mitosis

オランダに建設予定のバイオフィリックデザイン住宅施設「Mitosis」は、GG-Loop社がデザインしています。
先細りにデザインされた4つのタワーで構成されており、アパートメントや中庭に光が効率良く届くように設計。4つの塔は山脈をイメージしているのだそうです。また、天然の外装材や内部に木材、外側には石を採用。バルコニーの一つひとつに設けられたグリーンとの相性が抜群です。
実例13. ボスコ・ヴェルティカーレ

イタリアのミラノに建つツインタワー「ボスコ・ヴェルティカーレ」は、まるで大都市にそびえ立つ森のよう。イタリア語で「垂直の森」と表わされ、インパクトのある外観が話題を呼んでいます。
一戸一戸のバルコニーには樹木が植えられており、ほどよくプライバシーを確保しています。こちらの高層集合住宅は地上27階建てですが、樹木がつくりだす緑の景観によって上層階にいることを忘れてしまいそうですね。
なお、バルコニーに植えられた樹木は、風で幹が折れても落下しない工夫がされているそうです。
オフィスに観葉植物を置く効果とは?
3つのメリットを紹介します
国土交通省の資料をもとに、日本の企業でバイオフィリックデザインを取り入れた実例を紹介しました。上記の例は大掛かりなものが多いですが、実は観葉植物を置くなどの簡単なことでも、バイオフィリックデザインを導入することができます。
オフィス移転を検討中でしたら、フローリングを見直してみるのも一つの手段です。「部屋の印象は床が9割」とも言われるように、例えばフローリングを木目にするだけでもオフィスの印象を快適なものにすることができます。下記のページでは、木目のフローリングがもたらす効果やフローリングの種類だけでなく、無垢フローリングの専門家に正しい無垢フローリングの選び方をインタビューしています。

引用元:オスモ&エーデル株式会社(https://osmo-edel.jp/office/lp/)
オスモ&エーデルは、ドイツの暮らしや住居スタイルを提案する会社です。
住まいに関する製品販売や、新築・リフォームの相談も行っています。
人と環境に優しく、自然との関わりを大切にした、高品質な建材の取り扱いを通じて、快適な住環境を届けています。
オフィスと関わりの深い製品も取り扱っています。